自死した恋人のこと ①出会い
正確には、私たちは最期まで恋人にはなれなかった。
彼のことを仮にNと呼ぼう。
Nとはサークルで出会った。ひとつ上の先輩だった。そして、私は俗に言う一目惚れってやつをした。落ち着いていてどこか影のある雰囲気に惹かれた。
(これは後に雰囲気イケメンにすぎなかったことが明らかになるのだが(笑))
それからサークルでの活動の中で自然と仲良くなっていった。話が合う。好みや性格は正反対に近いが、何か似たような文法みたいなものを持っていたのだと思う。朝まで語り明かしたこともある。話題は世の中への憂いとか、科学技術とか、人との接し方とか、小難しい話を小難しくしていた。
何度か付き合ってほしいと言ったけれど、受け入れてくれたことはなかった。女性として見られていなかった節もある。(最終的にはそうでもなくなっていたのだが)
とはいえ仲良しは続いた。週一以上の頻度で会ってたし、毎日ラインを交わしてた。くだらない話をしたり、互いの悩みを時に真面目に聞き、時に笑いに変えたりした。かけがえのない親友だった。
今思えば、Nは精神的に様々な不自由を抱えていた。
好き、楽しいという感情がわからない。自分に自信がもてない。雑談のような会話が苦手。人と何を話したらいいかわからない。片付けができない。眠れないことがしばしば。発達障害グレーらしかった。後から知ったことだったけどしばしば希死念慮があったようだった。
臆病ゆえか他人に干渉したがらない、カッコつけて良いとこしか見せない、そしてものすごく優しい。吹いたら消えてしまいそうな人だった。
私はNのことが好きだった。最初から最後まで。
Nの気持ちはよくわからないのだが、愛してくれていた。好意はあったと思う。
周囲から見た私たちは付き合ってる以外の何物でもなかった。ただそこにスキンシップや好きという言葉が欠けているだけで。
当時の私は恋人になれないことにひどく傷ついた。でもNといるために懸命に話をして、夜な夜な泣いてでも一緒にいた。私の諦めの悪さでここまで繋がった。
そんな関係を6年も続けてしまった。
今思うとばかばかしくも思える。
でもかけがえのない大切な人になった。
一緒にいられた時間がどんなに幸せだったか。
当時はその彼が自ら命を絶つなんて、想像できるはずがなかった。
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