救急対応ができなかった話
無力さよ。
今日、とある事故に遭遇した。
けが人はいたけれど、幸いそこまでひどい傷ではなさそうに見えた。でも……
あと10秒先を歩いていたら私も巻き込まれていたろう。けど恐怖はほとんど感じなかった。
それ以上に困惑したまま何もできない自分に驚いていた。
現場にいた人たちが咄嗟に体を動かす。その側にいた人が「だれか、救急車を」と控えめに言う。近くを通りかかった高校生らしき人たちが「大丈夫ですか?何か手伝えることありますか?」と駆け寄る。奇跡的に事故を免れた若い男性が通報の電話を入れる。
……ひたすら傍観者でいた、
いや、頭の中では色々考えた。
救急車は近くにいた人が呼ぶのだろう。被害者は意識があり、頭部を怪我してはいるがさほど大きな傷ではなさそうだ。近くは人通りが多いけれど、交通整理をしてくれそうな大人たちはいる。
怪我は大丈夫だろうか。
頭部の傷は油断ならない。後頭部ではなかったから致命的なものにはならなそう(雑)だけど……手当の仕方は、わからない。
私の出る幕はない。ただの通行人だし、数いる目撃者のひとりにすぎない。
そこまで考えが及んだところで自身の初動の遅さに気づいた。
傷の止血を試みる。安全で涼しい場所に連れてゆく。症状を確認すること。声をかけること。
救急車を呼んでと声を上げた人はいたけれど、指名はしなかった。実際に誰かが通報するまでにかなり間があった。あれは私がしてもよかったものだ。現場から10秒程度、ちょうどよく距離があり巻き込まれることのなかった自分がしてよかったことだ。
辛うじて場所を伝えるのに協力できた。本当に、それだけ。
考えを巡らせている間にのろのろと事後対応が進んだ。
その中でも自分の至らなさが、何もできなかった自分が不甲斐なかった。
後になって考えてしまう。あれがもっと自分の身近なところで起こっていたら、もっと重症で初期対応が生死を分ける状況だったら、いや実はああ見えて他にけががありはしないか、頭部の傷は本当に軽傷だったのか?もし障害が残ってしまったら……何かできることはなかったのか……。
救急医療の現場では初期対応が重要だ。
救急車が来るまで5分以上?もっとかかったか。その間、けがを負った人はどんな気持ちでいただろう。今回は軽い傷かもしれないけれど、痛みに耐える時間は長く感じはしないか。その間にも症状は変化していないだろうか。
自分に治療できる資格が、能力や知識があったら……。
悔しい。
近くで用事を済ませると、ちょうど救急車の音が聞こえた。
ああ、無力だ。
私にできたはずのことのように思えたからこそ、無力なのだった。
勉強してみたい。
医学部にいたら、少しは違ったろうか。
悔しいのです。本来は私の領分ではないはずなのに、何故だかすごく、悔しいのです。
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