彼の痕跡が薄れてゆく話
ふと思い出して、彼の住んでいたアパートの物件情報のページをみた。時々チェックしていたのだ。部屋で亡くなったわけじゃないから事故物件ではないでしょう。
先月見たときはまだ入居募集中だったのが、どうやら新しい住人が入ったようだった。
気持ちは特に動くわけじゃない。何とも思わない。ただ、ああ、またひとつ終わったなって思うだけ。
ふたりで過ごした時間や思い出や記憶が剥がれ落ちてゆく。両手からこぼれたそれらを拾う気もなければ落ちないように留めるつもりもない。ただ、過ぎてゆく時を眺めている。そんな日々。
ちょっとずつ、ふたりの時間のことを書いてみよう。そしたら何かこの無感動な心が何か思い出せるかもしれないし思い出せないかもしれない。
あのアパートの部屋に違う誰かの時が流れ始めた。もう、彼がいた痕跡も、私たちが過ごした残り香も消えてしまっていそう。
こうやってひとつひとつ、おわって、いつかだんだん小さくなってなくなってしまう、
それを傍観しながら、無感情で立ち尽くす私はなんなんだ。
私の気持ちはなんなんだろう。
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