私とNと部室の話(めざせ小説風)
Nのことは話せる相手がいても、Nとのことはなかなか吐き出せていない。当時もひとりで相当抱え込んでいたのもあって、少しずつ言葉にしてみたいと思っています。今回第一回ということで。。
書きたいと思っててなかなか筆が進まなかったのだけど、やっと断片的に書きました。小説風を目指しました。ちょっとだいぶ恥ずかしいけど大丈夫かこれ。
落とし所がわからなくて迷子になりました。ゆるして。
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いつの間にか休み時間に部室に入り浸ることが習慣になっていた。課題をやっつけてしまわなければとは思う。でも今度弾く曲のことが頭から離れなくて、気づいたら部室棟に向かっているのだった。 部室棟と図書館が近いのはいけないよ。
今日もそんな例に漏れず午後の授業が終わると部室へ直行した。今日も会えるな。部室へ行くもう一つの目的がよぎる。今日は金曜日だから、きっと会える。期待しないようにしつつも期待してしまう自分がいた。
部室の扉を開けると蒸し暑い部屋の空気が襲った。真夏の部室棟は冷房もなく熱気がこもる。まだ誰もいない。いや、はなからわかっている、誰も来やしないのだ。大学生にもなって部活に夢中になっている自分。みんな勉強やらバイトやらで忙しいし、自分以外に個人練習をしに来るような物好きはそう現れない。ただひとりを除いては。
部屋の奥に楽器が収めてあるスペースがある。棚の上から音の高い楽器、下は低音で大きい楽器。私は一番下からケースを引っ張り出して、チューニングを合わせてなんとなく弾き始めた。 本当は基礎練とかするんだろうな。次弾く曲の音をさらうほうが有益な時間になるはず。そう思いながらも弾きたい曲を弾き漁って、ろくに実になるような練習をしないまま時間が過ぎてゆく。楽器を弾くのは楽しい。けれど本来やるべきことを圧迫しているし、楽器それ自体にも身が入らないことで後ろめたさを抱えている。それにも関わらず蒸し暑い部室に来てしまうだけの理由があるのだった。
しばらくしてその理由がやってきた。適当な曲の練習にも飽きてきた頃だった。聞き慣れた足音が聞こえる。不安混じりの期待が確信と喜びに変わった。
コンコン。2回のノック。
「こんにちはー」
「こんにちは」と私。
「おつかれさま。あれ、今日も練習してるの。試験期間なのに、大丈夫……?」
大丈夫とは余計なお世話だ。 すかさず言い返そうとする。
「先輩こそ、そろそろ勉強してちゃんと進級したらどうですかー?」
何も言い返せない彼。いきなり言い過ぎたかなぁ。すみませんと付け足すのを半分聞きながら、彼も一番下の棚からケースを持ってきて、楽器を取り出した。が、しかし、何か探しているらしい。
「あれ、もしやまたチューナー貸してですかー?先輩?」
「うん、いいかな」
5回中2回はこのやり取りを交わしている気がする。申し訳なさそうにしているところが可愛い。
私は二重奏の譜面を広げて、彼の方へ差し出す。
「昨日見つけたって言ってた曲、これですよね?」
「んー、そうそう」
そうしてその彼が見つけたという演奏動画を見せてくれた。スマホだから、距離が近くなるな。......いいけど。
「やっぱりカッコいいな」
「ほんと。弾いてみましょうよ、このへんならすぐできそう」
そうして部室棟が閉まるギリギリまで楽器を弾いたり、演奏会とは関係ない曲を合わせたり、他愛もない会話を交わした。
部室で過ごす時間が一日の中で一番好きな時間だった。こんな日々がだいたい2年と半年くらい続いたのだった。彼が私より一年早く引退してしまうまで、だらだらと幸せな時間を過ごしたことになる。
時々自分に問う。「後悔してる?」って。
最初は迷っていたし戸惑っていた。自分の感情、彼に好意を抱いている気持ち、楽器や音楽に傾倒してゆく自分と、いますべきことは勉強だという思いとのギャップが受け入れられない。
でもいまはもう迷わない。
「とんでもない。出会えてよかった。あのとき共に過ごせた時間は一生の宝ものだ」とそう言える。そう言えてしまうほどに、私は彼と音楽に染まりきっていたのだった。
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当時の自己評価なんですが概ね
惨めだと思う50%
幸福だと思う30%
青春してる20%
という具合でした。客観的に見たら私のしていることは浅はかだな。その上抜け出せないのがより愚かっぽい。部室通いや先輩のことを考えるのをやめたいと思いながらもやめられない、依存症みたいじゃないかって思っていた。
未だに思っているフシはある。
Nとのこと第一弾でした。
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